ヴェイルの守護者
八章其の弐
「やれやれ」
周囲に誰もいないことを確かめてから、オフィルはこきこきと肩を鳴らした。
……ああ、疲れる。
自ら選んだこととはいえ……やはり人と接するのは億劫だ。
もう一度誰もいないことを確認した。
ここは術師長専用の瞑想室、他に誰かがいるべくもないが、念には念を。
それほど気を配ってもまだ足りない──そんなことを、自分はしようとしているのだから。
手にしていた人形を、部屋の中央にある台の中心に据える。
凛とした表情の中にかすかに寂しさをにじませた少女の像。
我ながら会心の出来だな、と、すこぶる珍しいことにオフィルは自分で自分を誉めた。
「……では、はじめましょうか」
つぶやき、目を閉じる。
手を人形の上にかざして。
ゆっくりと脳裏に像を描き出す。記憶から映像を鮮明に抜き取る。
顔。声。仕草。
自分の知っているすべて。
自分の五感がとらえた彼女のすべて──自らの内に再現し、描き出す。
歩き方話し方、視線の配り方、眉をひそめる癖、怒った顔笑った顔……泣いた顔。
声の調子、アクセント、言葉遣い。
肌の感触、体温の具合。
覚えているすべてを、一つ一つ探り出し、丁寧につなぎ合わせる。
──そして。
ふ、と部屋の空気が揺らいだ。
自分以外の誰かが部屋の中にいる証。
オフィルは静かにゆっくり目を開けた。
「──オフィル」
少々ぎこちない話し方で彼女が呼ぶ。
「はい」
微笑む彼をしげしげと眺める少女。
「……オフィル」
今度の呼びかけはなめらかなものに変わっていた。
「はい……ディナティア様」
少女は少し首をかしげた。
「ディ……ナ、ティア」
繰り返す。
「ディナ、ティア……」
ふ、と。
その口元が緩んだ。瞳に浮かぶは揺るぎ無い視線。
「そう。わたしはディナティアだ」