Irreglar Mind
第10章 本音と建前 - 2 -
2月も半ばを過ぎた頃、俺は久しぶりに高江から声をかけてもらった。
学校帰りのバス停でちょうど会ったんだ。
目が会った瞬間にどきっとして、視線をそらされるのが怖くて、自分から先にそらした。
そんな俺に、彼が言ったんだ。
「紗夜に、告白された」
いつか誰かから聞くとは思っていた言葉だったけれど、予想以上に心臓に悪かった。
多分、本人から聞いたからいけない。
それでも俺は平気な顔をしてみせた。
無表情は、得意技だ。
偽物だから、本心を隠すのだって、巧いんだ。
「……おめでとう」
そう言った瞬間、高江の手が伸びて俺の腕をつかみ、ぐいっと引っ張って、うつむいていた俺の顔を上げさせたのだった。射るようなまなざしにぶつかって俺は驚き、息を飲んだ。
「本気で言ってるのかっ?」
高江の声を聞くのも、視線を交わすのも、なにか懐かしくて、俺はなんだか泣き出しそうになりながら、困惑した。
だって変だぜ、どうして喜ばない?
俺になんて言わせたいんだよ。
「俺は本気だ」
他に言葉が見つからなくてそう言ったら、彼は一瞬目を見開き、ついで失望したようにため息をついて俺から手を放した。
なんなんだよ、一体っ?
わけがわからずにいると、そんな俺の前で高江は顔をそむけた。
かろうじて見える横顔には、表情なんてものは浮かんでいないのに、どこか悲壮感みたいなものが漂っていて、俺は思わず見とれてしまったんだ。
なにを、考えてるんだろう。
今、彼は一体何を思っているんだろう。
もしかしたら、樹のことだろうか。
樹が紗夜さんのことをどれだけ好きか、ずっと見てきた高江だから……もしかして悩んでしまっていたり、するのか?
そう思ったら俺は黙っていられなかった。
「もっと素直に喜べよ、高江。樹なら、心配ない。あいつこの間俺に、つきあってくれって言ったよ。紗夜さんのことはふっきるつもりみたいだ」
高江は思わずといったように俺を見、皮肉げに唇の片端を持ち上げた。
「立ち直りが早いな」
これは俺への言葉なのか、樹に対してなのか、よくわからない。けど、なにかすごく尖った言葉、だった。
俺は何も言えずに黙り込み、そんな俺に高江は続けて言った。
「それなら俺は、何も迷わなくていいんだな。……4月になったら、留学する」
え……。
それって、紗夜さんと一緒に、ってこと?
俺は一瞬呆然とした。
会えなくなるんだ。
一緒にいられないってだけじゃない。全然まったく、会えなく、なるんだ。
口元まで出かかった言葉をかろうじて飲みこんだ。
嫌だ。
そんなのは、嫌だ……!
だけど、自分を偽ることに慣れた俺の顔は平静で、俺の口もいつも通りで。
誰にだって口にできる、おざなりな言葉を口にしていた。
本音じゃない、建前を。
「そっか。がんばれよ」
できることなら、その場で泣き喚いてやりたかった。