雨恋
エピローグ
くるり、と。
すごいタイミングのよさで、彼が振り向いた。
ばちって目が合って。
「おはよう」
笑顔があいさつをくれる。
「おはよう」
あたしも、笑顔で返した。
今日はとびきりの笑顔ができる日。
だって雨だから。
大嫌いだった雨の朝。
いつもの三倍は混んでるバスの中、濡れた傘がふくらはぎにあたって気持ち悪いし、肩に掛けてるカバンは持っていかれそうになるし、後ろからも横からもぐいぐい押されて、なのに逃げ場はなくて辛いけど。
前に立ってる背の高いサラリーマン風のお兄さんが吊り革にぶら下げた腕の、ちょうどひじの部分があたしのおでこの位置で、バスが止まったり曲がったりするたび、ごつんごつんと当たって痛いんだけど。
だけどいいの、全然いいの。
だって、そこに彼がいるから。
雨降りの朝が大好きになったのは、あなたがくれた奇跡。
あたしはまだ、将来のことなんて全然考えてないけど、だけど。
あたしはこれからも、ずっと。
雨降りの朝には学校に遅刻していくんだろうなって思う。
- fin -