君がここにいる奇跡
プロローグ
夢を、見る。
何度も何度も同じ夢を。
繰り返す。
───おにいちゃん。
聞こえる声はずっと変わらない。あの日から。
あどけなく、幼い無邪気さで呼んでいる。俺を。
呼び続けている。
冗談じゃない、関係ない、責任は俺になんてない。
そんなふうに思えたらよかった。俺のせいじゃないってみんな言ってくれたし、自分でも十分の九くらいはそう思ってたから……そう思おうとしてたから。
そのまま、忘れてしまえばよかったんだ。
あれは事故だ。事故だったんだ。ほんとに。
俺のせいじゃなくて、俺が悪かったんじゃなくて、だけど。
なのに。
───おにいちゃん。
なんで呼ぶんだ、いつまでも。
もういないのに。
お前はもういないんだっていうのに、どうして。
あの時のままの声でどうして、俺を呼ぶんだ。
俺は答えられないのに。応え、られないのに。
眠るのが怖くなったときもあった。でも、もう今は慣れた。別に俺は、慣れたくなんかなかったのに。
いるのか。お前は、どこかに。
だから、呼ぶのか?
いないのに。
何度も何度も俺に呼びかけて、あの日を忘れさせてくれない。
いまさら忘れたってしょうがないけど。本当にいまさらだから。
知らぬふりしている。覚えていないような顔、している。
……それでも、お前はだませない。
───おにいちゃん。
これは復讐か?そうなのか?
あの時のことを恨んでいるのか。だから。
だから、俺を呼ぶのか……?
毎夜、途切れることなく訪れる。十二年間も律儀に。
声だけで姿を見せない子供。
そして。
そして、今日も、夢を見る。