君がここにいる奇跡
三章 風の薫り 其の四
窓から入った風が、さぁっとカーテンを揺らした。
「ああ、気持ちがいい」
ゆっくりとその空気を吸い込みながら、茅乃はつぶやく。
窓のそばで揺れるのは、花瓶に生けられたひまわりの花。
家の花壇に咲いたのを、娘が持ってきてくれたのだ。ずいぶん長く帰れていない自分に、少しでも家の空気を味わわせてやろうと。
直に吸える空気の、なんとおいしいことか。
なんと幸せなことか。
鼻の周囲には今もまだ、酸素マスクの感触が残っている。
入院して四ヶ月。不自由極まりないこの生活も、もう少しで終わる。
やっと。……やっと、帰れるのだ。
娘にもずいぶん迷惑をかけた。文句の一つも聞かなかったが……いや、聞かなかったからこそ。
申し訳ない気持ちになる。
でも、それももう少しのこと。
もう少ししたら……彼女を解放してやれるのだ。
ふぅ。
知らず吐息がもれた。
もう少し……もう少し。
そう思ってこんなに経ってしまった。
けれど、今度こそ。
今度こそ、わたしは帰る。
あの家に────。