1. Home0
  2. Novel1
  3. Irreglar Mind

Irreglar Mind

プロローグ

「ごめん。俺、お前のこと、女って思えない」

史上最低のふられ方ってのがあるんなら、多分これがそうじゃないかって思う。

だって、女って思えない、だぜ?

ずっと好きで、いい友達をやってきて、ふられんのが怖くて告白できなくて……でも。

もしかしたら、もっと近づけるかもしれない───。

普通の女の子が普通にする恋と、同じはずだった。同じだと思ってた。

すごく悩んで、ほんとに悩んで、悶々とした挙句、精一杯の勇気をふりしぼって、覚悟を決めて、一世一代の恥をしのぶような、そんな気持ちで告白したんだ。

悩んでたってしょうがない、自分だけじゃどうにもならない問題だから。

そう思って、言ったんだ。

好きだって。

柄にもなく、めいっぱい緊張しながら言ったら。……言ったのに。

返ってきた言葉は、これだった。しかも、間髪入れずって感じだった。

ばっかやろう、少しは考えるフリくらいしてみせろってんだ。

悲しいとかってそういう気持ちより先に、思わずつっこみそうになっちゃった。

これって、ひどいよねぇ……。

確かにわたしはがさつで、背だって170以上あって、胸はないわヒップもないわ、まるで男の子みたいな体型でさ。

性格だってさばさばしてて、口は悪いわ乱暴だわ、女の子らしいことなんて一切できないって奴ではあるけれど。

これでも一応、自分なりに気を遣ってんだよ。

髪の毛を伸ばすことで女らしさを強調してみるとか。

うわべだけ努力しても……なんて、言いたい奴には言わせておく。ただ伸ばしてるだけじゃない、月に一度は毛先をそろえに美容院へ行き、ドライヤーは決して使わず、リンスはお酢を使っているっていう念の入れようを笑いたけりゃ、笑えばいい。

腰まである髪をベストな状態で保つのって、かなり大変なんだけどね。

気を遣ってるのは髪だけじゃない、肌にだって歯にだって、細心の注意を払ってる。

お洒落したって似合わない以上、そういう地道なところでがんばるしかないじゃん?

さらにその上、だ。自分の動作の一つ一つにまで気を配ってた。女の子らしい座り方なんてできないし、おとなしい動きなんてやれと言われたって無理なんだから、せめて洗練された動きってのでそれをカバーしようと思って。

でなきゃ、ただのがさつだぜ、救いようがない。

そういうのって、人から見れば大差ないかもしれないけど……それでも地道に努力してたんだよ。健気にさ。

それをだなぁ、女とは思えないってどういうことだよ。一体誰のためにこんな泣かせること、やってたと思ってんだ、大間抜けっ。

わたしは一気に気が抜けて、なにかすごく馬鹿らしいことのように思えてきた、なにもかもが。

こういう涙ぐましい努力のわからん奴に惚れてた自分が情けなくて、でもって、努力してもやっぱり女として認めてもらえなかったことが悔しくて。

平気な顔は得意だよ。だから、あっさり冗談にしてやった。

馬鹿だなぁ、本気なわけないじゃん?

いつもの軽口と同じように、そう言ったよ。

だって、他にどうすればいい?

泣くなんて似合わないんだ。かわいい仕草なんて、できないんだよ。強がることしか知らないから。

だけど……傷つかなかったわけじゃないよ。

顔と心は違うだろ?平気な顔してたからって……心まで平気なわけはないだろ?

ほんとにほんとに好きだった。

好きだったんだ。あいつの笑った顔も、拗ねたような口調も、困ったように髪をかきあげる癖も。全部。

だけど、あいつはわたしに女を見ない。認めない。

──────だったら。

やめる。やめてやる。

簡単なことだよ。もともと女らしいところなんてないんだし。

はねつけられたこの気持ちを、忘れてしまえばすむことだ。

恋なんて、するもんじゃない。少なくとも、わたしには必要じゃない。

こんなふうに惨めになるくらいなら……もう二度と、金輪際、恋なんてしない。

そう、思った。

女って思えない?上等だね。

やめてやるよ。女。

長い髪も、細かいところへのこだわりも、全部さよならだ。

さっぱりするね、うざいことしなくてよくなるんだから。

こんな苦い思い出もすっぱり忘れてやる。

女じゃないなら、こんな思いしないもんな。

なにもかもいいことばかりで、万々歳だ。

そうだよな?

だから───わたしは、俺に、なる。