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Irreglar Mind

第1章 最低最悪のオカマ野郎 - 2 -

彰子がバスを降りてくのを見送って、俺はため息をついた。

意図してじゃない、ため息だった。……なんで出たのかは、自分でもわからない。

そんな俺の隣の席に誰かが腰を下ろした。頬杖をついて窓の外を眺めてる俺の視界には、栗色の長い髪とくるぶしまで隠れるくらいの、長い赤のスカートくらいしか映らない。

何気なくちらりと眼をやって、驚いた。すっごい美少女。彰子も顔負けの。

いや、この言い方は正しくないな。負けてるわけじゃない。でも、この娘もきれいだ。

そう、きれいなんだ。彰子はかわいいけど、この娘はきれい。形容が別だ。

栗色のストレートヘア、腰にちょっと届かないくらい。小麦色の肌、切れ長の瞳……これは濃い茶色。

で…………あ、れ?

さらに横目で観察しようとして、重大なことに気がついた。

目線が、同じなんだ。つまり、座高が同じなの。俺と。

これってどういうことかっていうと、つまり……彼女の身長、俺と同じか、あるいはそれ以上あるってこと。

普通、女の子の身長って160前後だろ?俺と10センチ以上の身長差があって座高が同じだったら、この子むちゃくちゃ胴が長いってことになってしまう。

でも、まさか、だよな。それなら俺くらい背が高い女の子なんだって可能性の方が高い。

それだって、そうそうあることじゃないと思うんだけどさ。

ちょっとびっくりしたもんで、思わずまじまじと見つめちゃった俺の視線に気がついて、女の子がふとこっちを見た。

俺はぱっと視線をそらし、赤くなって反射的に横を向く。

まずかったよな、やっぱり。見知らぬ人にいきなりまじまじ見つめられるなんて驚くだろうしなぁ。

それよか、気持ちが悪いかもしんない。なんなんだこいつ、って。……思われた、だろなぁ……。

どーんと落ち込んだ俺の耳に、ちょっとハスキーな声が聞こえたのはその時だった。

「……どっか、おかしいところ、あった……?」

横を向いてた俺は、またもや反射的にその子を振り向き、ぶんぶんと首を振った。もちろん横に。

美少女はにっこり微笑んで、ほっとしたようにちょっと息をついた。

うっ、なんてかわいいんだろ。

なんで同じ女なのに、こうも違いが出るんだろうなぁ……。

美少女が声をかけてくれたのでほっとして、でもって、声をかけてしかも笑ってくれたってことは、もしかして見てたこと怒ってないのかな、なんて思って……で、話しかけてみた。

だってすごくきれいな人なんだもん、話ができるのだけでももうけもんって感じでさ。

それで口を開いてみずにはいられなかったわけ。

「俺、今見てたの……わかっただろ?怒んないの?」

本当はもっと気のきいた言葉をかけたかったんだけど、思いつかなくて。

だけど美少女はにっこり微笑して、言ったんだ。

「見られるのは好きだもの。キレイでしょ」

自信たっぷりに言われて、俺はちょっと唖然。

……キレイでしょ……って……それってちょっと危ないぜ。まるでナルシストだ。

返す言葉に困っていると、少女はちょっと不愉快そうになって、俺に尋ねた。

「私……キレイじゃない?」

いや、そういうわけじゃなくて……。

どう答えたらいいのかと思って、思わず考えこんでしまう。

もちろんキレイなんだけど、まさかこういう反応が返ってくるとは思わなかったから。

「……やっぱり、無理かなぁ……」

俺が答えないでいると、美少女はちょっと悲しそうな顔になって、ため息をついた。

え……無理って、何が?

俺はもう一度彼女をまじまじと見つめ、直後に気づいた。

これからデートなんだ!さもなくば、告白に行くんだ。

だってさ、すっごく気合い入ってんだよ、全身にさ。

ちょっとどこかにショッピング、とか、女友達と遊びに、とか、そういうのじゃない。絶対違う。

これは、男だ。男に会いに行こうとしてるんだ。

濃い紺のほっそりとしたラインのワンピースに、上から羽織った手編みらしい白のボレロがよく似合ってる。

いかにもお嬢様然としていて、一歩間違ったら違う世界の人なんだけど、ぎりぎり踏みとどまっているその危うさがさらに彼女を引き立てているようで。

でもって悩ましげにため息なんかつかれたら……つかれたら。

「ち、ちがうよ、きれいだよ、すごくきれいだ、ほんとに」

こう言うしか、ないじゃないかぁ……。

でもそう言ったら彼女、すっごく嬉しそうな顔して、笑ったんだ。

や、やっぱかわいいよなぁ……。

無邪気な顔で、

「ほんと?ほんとにそう思う?」

って言われて、俺は苦笑しながらうなずいた。

もしここで俺がうなずかなくて、彼女が相手の男とうまくいかなかったら、やだもん。

それにきれいだと思ったのは事実だし。

そんなこと考えてる俺の前で、彼女はにこやかに言った。

「ありがと、自信ついちゃったな。もしかしたら優勝できちゃったりしてね」

……え、優勝?ってことは……男に会いに行くんじゃないのか……。

推理が外れた俺は、目を丸くして首をかしげる。

「オーディションかなんか、受けにいくわけ?」

そうなら、モデルとかの卵なのかもな。

ちょうどそのとき、次のバス停のアナウンスが入り、俺は慌てて立ちあがった。

俺の降りる停留所なんだ。美少女に気がいってて、あやうく乗り過ごすところだった。

「コンテストよ、受けるのは。私、中原樹(なかはらたつき)って言うんだけど」

そう言われて、俺は体が固まる思いで美少女を見た。

タツキ……だって?

樹って……男の名前じゃんか?少なくとも一般的にはそのはずだ。……ああ、でも待てよ、最近は洒落た名前をつけるのが流行りらしいから、わざとそういう名前を女の子につけたりすることもあるのかもしれないし。

がくん、という衝撃と共にバスが止まる。

降りなきゃ。

そう思いつつ……俺は口を開いてしまっていた。

「コンテストって……なんの?」

聞くべきか聞かざるべきか、すごく迷いながら。

聞きたくない答えを、予想して。

だけど、聞かなかったらきっとすごく気になると思って……聞いちまった。

「何って……女装コンテストだけど」

再び走り出したバスの中で、俺は目をむいて、そのオカマ野郎を見ていた……。

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