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彼女の選択

とにかく俺はやつが嫌いだ。

なぜか行く先々に現われては邪魔をし、そうでありながらさもこちらが悪いような顔をする。奴が俺の何を気に食わないのかは知らないが、いつも俺のことを睨みつけるような視線で追っている。

だが、まぁそれはいい。傍から見れば多分俺も、あいつに対して同じ態度を取っているんだろうからな。

とにかく。俺は、やつが大嫌いだ。


「主人、あれを」

「主人、あれを」

見事にハモった。同じような体勢で展示してある一振りの剣を指差しながらバチバチと火花を散らして睨みあう二人の青年に、武器屋の主人はおろおろとする。

二人とも背が高く鍛え抜かれたいい体をしている。一人は貴公子然とした雰囲気を持ち、今一人は数多の戦いを生き抜いてきた貫禄のようなものを備えていた。

頼むからこんなところで喧嘩はおっぱじめないでくれよ、と主人は内心で思う。いかにも手練れの二人だ。暴れ始めたら周りのものが抑えられないのではないだろうか。それが心配だった。

「レックス。斧使いのあんたが、剣なんて買ってどうするつもりだ?」

「ホリン。お前はもう十分にいい剣を持ってるじゃないか。さらに上が必要か?」

バチバチバチバチ。

聞こえるはずも無い音、見えるはずのない火花。一触即発の雰囲気が見せる幻だろうか、と主人は両手を揉む。

「あのー…………生憎とあの剣は一本しかないもので…………どちらかがお譲りになっては」

へらへらへらへら。力の抜けた笑顔で応対するのは、長年で身に付けたいわゆる処世術だ。相手を制するだけ力が自分にないのならば、相手を呑みこんでしまうしかない。そうするにはまず、毒気を抜く必要があるのだった。

「だとさ。そういうわけだから、譲ってくれるよな」

わずかに背の高いレックスが、ふんぞり返ってホリンに要求した。それを下からねめ上げるホリン。

「悪いが俺は、なんでも自分の思い通りになると思っているおぼっちゃんが嫌いでね」

言うなり主人の方を向き、尋ねる。

「そいつは、いくらだ?」

「はぁ…………8000ゴールドでございますが…………」

「わかった。10000出そう。俺に売ってくれ」

主人は仰天した。いきなり2000ゴールドも勝手に値を吊り上げてくれるとは。思わず相好を崩し、剣を包もうとしたとき、今一人の青年が口を挟んだ。

「12000だ」

主人の手が止まる。ホリンのこめかみがぴくりと引きつった。

「15000でどうだ」

「20000」

「25000!」

「30000だ!!」

最初こそどきどきと嬉しく思っていた主人だったが、だんだんと心配になってくる。競い合って値を上げるのはいいが、いざ引き取り相手が決まったときに持ち合わせがない、などと言われては困るのだ。一旦は包み始めた剣を脇に置き、二人の決着がつくのを待ったほうがいいかもしれない、と思う。

「大体、金にものを言わせて手にいれようっていうその根性が気にいらねぇな。こいつは俺が先に見つけた。だから俺が買うんだ」

「だからぼっちゃんだと言うんだ。世の中、先も後も無い。汚い綺麗も関係ない。手に入れたもの勝ちさ」

不敵に笑うホリンに、レックスは意地の悪い顔をした。

「ほーぅ。それ、アイラの前で言えるか?」

一瞬虚を疲れた様子のホリンだが、すぐに気を取り直す。

「おしゃべりな男は嫌われるんだ。必要があれば、そのときに言うさ」

バチバチバチバチ。

また、二人の男が睨みあう。

どうでもいいから、早いところ決めてくれ、と主人は思った。なかなかに切実な願いだった。先ほどからこの二人に恐れをなした客たちが店を出て行くわ入らないわ、遠巻きに見ているわ。このままでは経営に影響するかもしれない。よくない噂でも立ったらどうしてくれるのだろうか。

「あのー……」

腹を括って口を出した。なんだ、と二人同時に睨まれる。怖い。だがここで竦んではいかん、と主人は自分を励ました。店のため、家族のために強くなるのだ。

「こうされてはいかがでしょう……その……とりあえず二人でお買い上げになって、それからゆっくりお取引なさる、というのは………。どこか、別の場所で」


気弱な顔してなかなかなやるな、とホリンは思った。武器屋の主人の提案に従い、定価を等分に出し合って求めていた剣は手に入った。といっても、店を体よく追い出されたようなもので、決着はついていない。

お互い、簡単に引き下がれるものではないのだ。剣の延長にあるもの、それを彼らは奪い合っているのだから。

「いっそ、決闘でもして決めるか」

レックスはあながち冗談でもない顔でそんなことを言う。

「……本気か?剣と斧、どう考えてもそちらに利はないぞ」

呆れた顔でホリンが言うのに、レックスは自信たっぷりで答えた。

「武器の特性なんぞ、技量でどうとでもカバーできる」

本気でホリンは呆れた。本当に、本気だろうか?

ホリンとてレックスが弱いと思っているわけではない。だが、技量と素早さを売りにしているフォレストの自分に、グレートナイトのレックスがどう戦うつもりなのだろう。やたら固いから確かに苦戦はするが、相手の攻撃が当たらなければどうということはない。しかもホリンには相手の防御の隙を完全に突く月光剣がある。

だが、それも面白いかもしれない。口で何を言い合っても虚しいだけだ。ここはひとつ、戦士らしくそれぞれの武器を合わせてみるべきなのかも。

「いいだろう、後で泣き言を言うなよ」

釘を刺し、彼らは場所を選んで対峙した。剣と斧を合わせること、数合。

思ったよりも手応えを感じて、ホリンは楽しかった。レックスもまた、そう思っていることが見て取れた。……認めたくはないが、とことん自分たちは似たもの同士らしい。その目を見れば、大体思っていることがわかってしまう。

そのことにかすかな苛立ちを感じ、大剣を振り上げたとき。

「なにやってるっ?」

突如女の声が割り込んだ。はっとして二人とも動きを止める。───声の主は、アイラだった。

「…………練習って雰囲気じゃないな。何をやってるんだ?」

答え如何では張り飛ばされそうな雰囲気で問われ、ホリンとレックスは顔を見合わせる。剣を降ろしてホリンが答えた。

「練習だよ、…………まぁ確かに普通のってわけじゃないが。あるものを賭けてな」

ちらり、と意味ありげな視線を彼女に送ったが、アイラはそれにはまるで気づかずふぅんとつぶやいた。そばに転がっている包みに目をつけ、あれか?と聞く。

「剣と斧で大した勝負になるとも思わんのだが。……開けてもいいか?」

なにか予想外の展開になってきたな、と思いながらホリンは頷いた。包みを開けたアイラの顔が一瞬驚きに包まれる。

「これ……!いい剣だな…………!」

感嘆の声を上げるアイラに、ホリンとレックスはそれぞれ、自分の目に狂いがないことを知る。だが、その先が問題だった。

「わたしも混ぜろ」

くるりと振り向いて、黒髪の美女がにこりと笑った。ああ、と声にならない嘆息が二人の青年の間を通り抜けた。


結局。勝負はアイラが勝って、ホリンとレックスが買った剣も彼女のものになった。剣自体は収まるべきところにおさまったわけで、まぁそれはいいのだが。

「なんっか納得いかねぇっ」

上機嫌で去っていくアイラの後姿を見送り、へたりと地面に腰を落としてレックスがぼやいた。同意したいところをぐっと抑えてホリンは涼しい顔を取り繕う。

「まぁ、喜んだんだからいいじゃないか。引き際をスマートに決めるのもいい男の条件だぜ」

「だれが引くなんて言ったよ」

ぎろりと睨みつけるレックスにふっと笑って、ホリンは歩き出した。

「一度や二度の失敗でへこたれてちゃ、いい夢は見れないってことさ」

言うなり、駆け出した。アイラの後を追いかけていくその姿に、レックスは思わず舌打ちする。

「あのやろう……っ」

跳ねるように飛び起き、彼も後を追う。

そうだ、まだまだこれから。戦いはまだ続くのだから。いつか彼女が誰かを選ぶ、その日まで。

- fin -


FE聖戦誕生祭17作目。勇者の剣をめぐるホリンとレックスのバトル。誕生祭のシリーズではアイラとフュリーが相手をはっきりさせてません。そのあたりの話も書きたいとは思っているんですが。……いつか。いつかね。

ちなみに一段落目の独白はホリンとレックス、どちらのものかっていうと……どちらでもあり、です。というか、どちらのでもあり、かな。

2003年5月14日 凪沢 夕禾