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空舞う君を

目をすがめる。高く青い空の一点、そこに的を定めて。

「落ちろ!」

弓を引いた、その、瞬間。

「だめ!おにいちゃん!」

声が、聞こえた。


くるくると、舞うように。白き翼の生き物が落下してくるのを、ファバルは呆然として見ていた。否、そうではなく。その背から放り出され、生身の体で舞う少女たちの姿を、だった。金髪と、緑髪。空に踊る二人の少女。

「…パティ?」

金の髪の少女には見覚えがあった。というよりむしろ、よくよく知っている顔だった。

「風の精霊!!」

敵軍の中から一人騎馬で飛び出した少年が、蒼白な顔で魔法を唱える。ぶわり、と大きな風が起こって落ちてくる少女たちをからめとった。

「おにいちゃん!」

風に支えられゆっくりと落ちてきた金髪の少女は、くるりと回転して鮮やかな着地を決め、そのまま少し離れたところでいまだに弓も下ろせずにいるファバルのもとへ駆け寄ってくる。

見間違いでも、聞き間違いでもない。やはり、パティだ。けれども。

「何でお前がやつらと一緒にいるっ?」

おかげで危うく射ち落としそうになったじゃないか、と。言おうと思ったのに。

「そっちこそ何をやってるのよ!」

頭ごなしに、怒鳴られた。

「子供狩りなんかするやつらと、なんでおにいちゃんが一緒にいるのっ?」

ぐさりと、言われたくない言葉が心を抉る。見られたくない一面を、妹に見られた。よりによってこんな再会。

「これには事情が……」

「言い訳なんかいいから、今は来て」

久しぶりに会った妹は、変わらず元気で、活動的だった。あんな空高くから落ちてきたのにぴんぴんしている。魔法で多少衝撃が緩和されたとはいえ。

そういえば、もう一人いたな、と手を引かれながらファバルは思い出した。緑の髪の、天馬を操っていた娘がいたはずだ。その子はどうなっただろう。

導かれるままついていった先には人だかりができていた。中央に横たわった天馬と、一人の少女。あの子だ、とファバルは直感する。先ほど自分が射止めた、あの少女だ。

「……死んだのか?」

声は落としたつもりだったが、存外に周りによく聞こえてしまったらしい。一瞬空気がざわめき、それから張りつめた。まずったか、と思った瞬間、がしっと胸ぐらをつかまれた。

「お前がフィーを……!」

それは先ほど魔法を唱えて彼女たちを救おうとした少年だった。自分とさほど変わらない年頃、紫がかった銀髪に整った顔だち。それが今は怒りに歪んでいる。

「……戦争なんだから、仕方ないだろう。敵を撃つのはオレの仕事だ」

そうだ、それで金をもらっている。嫌な仕事でも、心を歪めてでも、それでも金が欲しい。だから、こんな仕事に身をやつして。

「ならば俺が貴様の息の根を絶ってやる…!」

銀髪の少年がそう叫び、いまにも魔法を唱えんとしたとき。

「やめて……」

小さな声が引きとめた。はっとしたように少年が振り向く。声の主は力なく横たわった少女だった。

「なぜだ、フィー!こいつはお前を殺そうとしたんだぞ!」

ファバルに指を突きつけ、納得がいかない様子の彼に、けれど少女はやはりかぶりを振る。

「その人、パティのお兄さんなの」

なに?と少年がファバルを見た。ついで、その隣りにいるパティを。

「なんで兄貴がやつらの手先なんかに…!」

矛先を変え、パティに食ってかかろうとする肩を掴んで、ファバルは彼を自分の方へ向き直らせる。

「やめろよ、妹は関係ないだろう」

「この……!」

随分と頭に血の上りやすい性質らしい。…と、口にすればさらに少年が逆上しそうなことをちらりと考えた。

「とりあえずここは休戦にしないか。フィーの容態を安定させるのが先だ」

人垣の中から一人の少年が進み出て、二人に提案した。それは提案でありながら、有無を言わせぬ絶対の力のこもったもの。

ファバルはこのときまだ名も知らなかったが、それが彼が敵としていた相手、解放軍と呼ばれる軍を率いるセリスという少年だった。


夜も更け、解放軍の陣営の灯かりのともった天幕も少なくなってきた頃。フィーの休む天幕の入り口で見張り番をしていたアーサーは、人目を避けるようにして忍んできた相手を認めるや、その顔をこの上なく険しくした。

「……なにしに来た」

抱えた剣に手をかけ、尋ねる。気に食わない答えが返るようなら即座に斬って捨ててやる、と彼は思っていた。けれど。

「礼を言いにきた」

丸腰で現れたファバルの答えに、はぁ?と思わず素っ頓狂な声をあげる。それに対し、ファバルは少し顔をしかめながら補足した。

「妹から聞いた。あの子が……妹を俺に会わせるために無茶を承知で天馬で突っ込んできたって」

「フィーが?」

それはアーサーにとって意外な話だった。

彼女とパティが親しかったというのならともかく、ごく普通の付き合いしかしていなかったことを知っているだけに、疑問は大きい。どうしてそんな危険なことを?

訝しげな表情をするアーサーにファバルは続ける。

「オレは事情をよく知らないけど……彼女も自分の兄さんを探してるんだってな。だから放っておけなかったんじゃないかって、妹は言ってた」

その言葉に、アーサーは納得した。フィーには風使いの兄がいる。そのことは何度も聞かされてよく知っている話だ。フィーがどれだけその兄を慕い、会いたがっているか、それも同じだけよく、知っている。

「…そうか」

ぽつりをそう答え、アーサーは黙した。だから、止めたわけだ。昼間、自分がファバルに突っかかったときに。あのときはどうしてなのか、全くわからなかったけれど。

「だから……礼を言いたい。会わせてくれないか」

気に食わないであろう自分に頭を下げるファバルに、アーサーはなぁ、と声をかける。尋ねた。

「…どうして、傭兵なんかやってたんだ?」

一瞬黙り込んだファバルが、問いに問いで返す。

「親は元気か?」

いきなり話を逸らしたな、と思いながら、アーサーは答えた。それは楽しい話題では、なかったけれども。

「父は、な。母親は幼い頃に生き別れて、そのまま……。会えないまま、亡くなった」

それを聞いたファバルはまた少し黙り込み、それからぽつりと言う。

「…金が、必要だったんだ」

その話の進め方についていけず、アーサーは眉をひそめる。傭兵と親と、金。どうつなげればいいのだろうか。

「戦争は、人を殺す。親を殺す。…親を殺された子供たちが、たくさんいるんだ。皆、まだ幼すぎて一人では生きていけない。信じられないことに、そんな子供を殺す奴もいる。狩り、なんて言ってな。そいつらを守るためには人がいる。ものがいる。……金が、いるんだ……」

ファバルの声は苦しげで。悲しげで。痛みを伝えてくる。

「……だから、お前も殺すのか?」

金のため。金のために傭兵に身をやつし、そうして人を殺して。そうやってまた、親のない子が増える。それは。

「お前たちだって殺すだろう」

ファバルが言い返した。アーサーはかっとする。

「俺たちは……!」

違う、と言いたかった。けれど、言えない。大元を断って、全て終わらせる。そのつもりで動いているけれど、その過程で多くの名も知らない兵士の命を奪ってきた。それは確かなこと。その一人一人に家族がいたはずだ。それを思えば、どれだけ多くの人に悲しみと苦しみを背負わせてきたことか。

絶句したアーサーに、ファバルはゆっくりと首を横に振る。

「…わかってる。わかってるんだ。それでもオレとお前たちが違うってことは。でも……オレのそばには、子供たちがいたんだ。ひもじくて、あわれで、小さな目に絶望だけ浮かべた……あいつらが、いたんだ。…オレは、金が欲しかった」

ただ、目の前にある小さな命を救いたかったのだと、彼は言った。けれどそのせいで、大切な家族まで失いかけるとは。命を賭してくれた人に傷を負わせてしまうとは。

「礼を言って、謝りたい。…だから、どうか中に入れてくれ」

再度頭を下げられ、それでもアーサーは逡巡した。そのとき。

「そんな必要、ないわ」

弱々しい声が、けれどはっきりした口調で答えた。天幕の中から。

「フィー!」

そうして、ひょっこりと顔をだした少女に、アーサーがおたおたと焦る。大丈夫よ、と彼女は言ったが、その顔色は夜目にも蒼白で、決して大丈夫だと言えたものではなかった。

「すまない」

ファバルが頭を下げるのを、だからいいってば、と制する。

「あの時、あなたはわたしを撃ってよかったのよ。避けられなかったのはわたしの責任。謝ってもらうことではないもの。…それに。パティを連れていったのだって、わたしが勝手にやったこと。本当ならわたしがお咎めを受けるべきところだったのに」

もしもファバルが彼女を撃っていなければ、確かにそうだっただろうとアーサーは思う。思えば、ファバルは貧乏くじを引かされたのかもしれない。だからといって、彼女を傷つけた行為が許されるものではないが……それは、自分の個人的な感情からくるところが大きいから、少しは引いて考えるべきなのだろうか。

「だが……」

フィーの言葉に納得のいかない顔のファバルに、じゃあ、と彼女は言った。

「じゃあ、一つだけ約束して。それでちゃらにしてあげる。……パティを一人にしないで。二度としないで。お願い」

ファバルがはっと目を瞠る。ややしてから彼は、わかった、と静かに言った。

「約束する。二度とパティを一人にしない」

その、答えに。ふわりとフィーは微笑んだ。


「ほんとにあれでよかったのか?」

フィーを寝かしつけてやりながら、アーサーは尋ねる。うん、とフィーは微笑んだ。

「いいの。だってわたしはそのために、パティを連れて会いにいったのよ」

ファバルの放った矢は天馬の腹をかすっだけで、フィーにも愛馬にも傷をつけはしなかった。それは彼の腕が悪かったからではなく、良かったからこその技だとフィーは知っている。

傷つけずに、追い返そうとしてくれた……。

それだったのに、自分の腕が未熟だったから。驚き怯えた天馬を御しきれず、宙に放り出されて。その上で天馬の前足に背中を蹴られる羽目になったのだ。

だから、ファバルが謝ることなんて、なんにもない。

「……本当に、心配したんだぞ」

呟きのように言って、アーサーがうつむく。その髪をそっと撫でて、フィーは言った。

「ごめんね……」

その腕を掴み、アーサーが告げる。

「フィーは、一人じゃないから。兄さんに会えなくても、一人じゃないから。一人になんか、しないから」

真摯な眼差しと言葉に送られ、微笑みながらやがてフィーは眠りに落ちる。ありがとうと、それはちゃんと伝えられたのだったか。

なぜだかもうすぐ兄に会えるような気がするのは、夢を見ているせいなのか。

夢と現の狭間で、フィーはふわりと笑った。

- fin -


FE聖戦誕生祭15作目。フィー×アーサーの、でも恋愛がメインじゃないお話。兄を慕う妹が二人描かれていますけれども……二人ともこの時点でちゃんと恋人がいるわけでして、兄と再会しても実は兄の方が寂しくなるだけというオチ。…かも。

2003年5月14日 凪沢 夕禾

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