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父の姿

「父上」

姿を見たら、嬉しくなって。コープルは久しぶりに見る父のそばへと走り寄った。

「コープル。元気だったか?怪我はしていないか?」

まるで小さな子供にするように、父ハンニバルはコープルを抱き上げると高々と持ち上げてそう尋ねた。恥ずかしいようなくすぐったいような、けれど今は嬉しさが勝って、コープルはくすくすと笑いながら、大丈夫だよ、と答えた。

「父さんこそ。前線に出されたって聞いたよ、大丈夫だった?」

真顔になって心配そうに尋ねる息子に、ハンニバルは苦笑する。

「大丈夫でなかったら、今ごろお前を "高い高い" などしておらんわ」

それはそうだ、とコープルは納得する。いかに鍛え上げた肉体を持つハンニバルとて、十を超えた息子の体を頭上高く持ち上げるのはずいぶんと苦であろうから。

よかった、と破顔する息子を地面に降ろし、ハンニバルは少し難しい顔をした。コープルはそれに気づかない。

「父上に会わせたい人がいるんだ」

両手で父のたくましい腕を引っ張り、走った。


「……なかなか珍しい光景もあるもんだな」

ぼそり、と。近づいてくる二人連れを見やって青年が漏らした。その声にリーンはうん?と顔を上げる。

「あら、コープル。……と、あれはどなたかしら?」

知っている?と傍らに立つ青年───アレスに水を向ける。いいや、と彼は短く答えた。

「でもどうやら、彼らのお目当てはわたしたちみたいよ?」

「じゃなくて、お前だろ」

素っ気無い答えにリーンは苦笑した。戦いが終わったあとの昼下がり。戦場から少し離れた丘で、彼らはしばしくの休息を取っていた。そこにコープルが初老の重騎士を連れてやってきたのだ。

「リーン!」

あどけない声で呼んで、コープルは大きく手を振る。リーンも手を振り返した。アレスは気づいているくせにそっぽを向いている。彼はなぜか、コープルが気に入らないらしかった。べたべたとまとわりつくのが気にくわない、らしい。

「まだ子供なのに」

アレスの心配するようなことはなにもない、と言っているのだけれど、そういう問題じゃない、という。気に入らないものは気に入らないらしい。

「リーン、父上だよ、ご無事だったんだ!!」

はじけそうな笑顔でコープルはぐいぐいと重騎士をひっぱり、丘を登ってくる。重騎士が軽い会釈を向けたのでリーンも挨拶を返した。

敵の人質として囚われていたコープルを助け出したとき、その父親がトラキアの将軍であることは聞いていた。敵から味方へと寝返るものがこれまでにも少なくなかったのでいまさら驚きはしないが、実際その相手と先の戦から幾時も経たないうちに対面するとなるとそれはまた別問題だ。先ほどまで殺しあっていた相手と、どんな顔をしておしゃべりをしていいものやら。

「よかったわね、コープル」

コープルはなぜだか。シグルド軍に救出され行動を共にするようになってすぐに、リーンになついた。彼女の踊りを見ていると懐かしい気持ちになって落ち着くのだと彼は言う。コープルは母の記憶がないというが、案外自分と同じ踊り子だったのかもしれない、なんて思う。リーンもあまり母親のことを覚えていないが、踊り子だったことは知っている。そしてその血が自分の中で今も生き続けていることを、踊るたびに実感するのだ。

「コープル。リーンより先にセリスのところに連れて行くのが筋だろう」

無愛想な声でアレスが割って入った。機嫌のいい顔なんて滅多にしないけれど、初対面の人はそんなこと知らないのだから、もう少し愛想よくできないものか、とリーンは常々思う。無理なお願いだとは、わかっているのだけれど。

果たして。

「──失礼しました。コープル、そちらの方が言われるとおりだ。まだちゃんとご挨拶をしていない。行こう」

重騎士がそう言って息子の肩に手をやる。むっとした顔でコープルはアレスを睨んでいた。負けじとアレスも睨み返す。……いや、別に睨んでいるのではなくただ見返しているだけなのだが、少なくとも周囲にはそう見えた。

「アレス様ばっかりリーンを独り占めしちゃってずるいや」

唇を尖らし負け惜しみを言って背中を向ける少年の姿にリーンは思わず苦笑する。慕ってくれるのは嬉しいが、こんなときはアレスの存在は頼もしい。


「…辛くは、なかったか?」

コープルと重騎士が去った後。アレスがぼそっと言ったのでリーンは首を傾げた。

「なにが?」

心当たりなんかまるでなかったから、アレスの問いの意味がわからない。けれど問い返すと彼はいや、と首を横に振った。

「平気だったのなら、いい」

変なの。変なアレス。

そう思ったけれど。ふと、閃くように思い当たった。

「もしかして……父親が恋しくなったんじゃないかと心配してくれたの?」

ふい、とアレスが顔をそむける。当たりだ、とリーンは苦笑する。ほんとに素直じゃないんだから。

「父親のいる子を羨ましがってやきもちやくほど子供じゃないわよ、わたし。セリス様の軍はそんな子ばかりじゃない…だからきっと、コープルはみんなに羨ましがられるわね。本人は気づいていないみたいだけど」

「バカだからな」

身も蓋もなく言い切るアレスにくすくす笑って。

「恋しがるも羨ましがるも……全然記憶にないんだもの。ただ、確信があるだけ。ちゃんと愛してくれてたと。だから母さんもわたしも幸せなんだと、思うわ」

抱かれた記憶も、愛された記憶も、ない。けれど踊り子の母の血を感じるのと同様、記憶とは違う場所にある確信。父に愛されている自信。

「アレスは?」

尋ね返すと、彼は少し黙り込んだ。そうして、ややしてから。

「多分、お前と、同じ」

簡潔な言葉を繋げて、返した。

「一緒にいられればそりゃあいいとは思うけれど。そうでないから不幸せだってわけじゃないわ。……でも、コープルが嬉しそうなのは、いいことだわ」

にこにこと笑顔でリーンが締め括ったら。アレスが嫌そうな顔をした。

「お前はあいつに甘すぎる」

拗ねる口調がかわいかったので、リーンはくすくすと笑った。

- fin -


FE聖戦誕生祭14作目。リーン×アレスです。コープルとリーンが姉妹なのは……この分だともしかしたら一生わからないままかもしれません。それはそれでいいのかも。そうだと知らなくても、お互いを大事にすることはできるのだし、それぞれ大切なひとを見つけてゆくこともできるのだから。

2003年5月14日 凪沢 夕禾

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