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ひとときのやすらぎ

「ひさしぶりね、フュリー。レヴィン様も」

多分ここだろう、と見当をつけたとおり、姉は馬小屋で愛馬にブラシをあてていた。ひょこっと顔をのぞかせたフュリーと、その後ろに控え目に立っているレヴィンを見つけて、彼女はにっこりと微笑む。昔と変わらぬ、華やかな笑みで。

「相変わらずなのね、お姉さま。飛行のあとは絶対ブラシをかけてあげるの」

久々に会った姉の変わらぬ癖にくすくすと笑みをもらしながら、フュリーはそばへ駆け寄った。昔から何度、こんな光景を繰り返したことだろう。フュリーが天馬騎士を志したのも、この姉がいたから。この姉に憧れたからだった。

「レヴィン様は中に入っていらっしゃらないのですか?そこは、お寒いでしょうに」

マーニャの言葉に、レヴィンは少しだけ顔をしかめて、嫌味か?と尋ね返す。きょとん、とフュリーが首を傾げた。同じく、マーニャも小さく首を傾けて、はい?と聞き返す。

「いくらあちこちを放浪してたといっても、生まれも育ちもシレジアだぞ、俺は。このくらい、寒いもんか」

くすくす、くすくす。

レヴィンの様子に、姉妹はこらえきれずに笑いをこぼす。

「レヴィン様ってお姉さまの前だとなぜかカッコつけますよね」

「強がりもほどほどになさいませんと、風邪をひいては意味がありませんよ」

言っている内容は全然違うのに、浮かべた笑みと言葉のタイミングだけはどんぴしゃり、といっていいほどに揃っていて。姉妹というのはどうしてこうも要らないところばかり似るのだろうかとレヴィンはため息をつく。

抵抗しても無意味だと観念したのか、おとなしく馬小屋に足を踏み入れた彼に、マーニャは満足そうに笑った。

「そうそう、素直なのがよろしいですよ。なんといっても王子は前科持ちですからね」

ぷっ、とフュリーが吹き出し、レヴィンのこめかみが一瞬ひきつった。

「前科って、あんな昔のことをっ!」

「昔も今も、王子は王子であらせられますからねぇ」

しれっ。美しい面に似合わず、相変わらず食えない相手だとレヴィンは胸中で嘆息する。小さな頃の過ちだ。そんなに楽しそうに意地悪く持ち出さずともいいだろうに。

「あのな、マーニャ。人は成長する生き物だぞ」

「それはそうとレヴィン様、このたびはご結婚おめでとうございます」

反論もどきの言葉などまるで聞こえなかったかのように別の話題を振られ、レヴィンは今度こそため息を外に吐き出した。それをまた、マーニャが聞きとがめる。

「あらまぁ、おめでたい話題にため息ですか?そんなでは、奥様がかわいそうですよ。かわいらしい方なのでしょう?」

ねぇ、と同意を求められ、こくりとうなずくフュリー。

「ええ、とてもかわいらしい方ですよ。お姉さまもお会いできたらいいのに。きっとティルテュ様もお喜びに」

ぴたり。にこにこと話していたフュリーの声が不自然に途切れ、レヴィンとマーニャは揃って首を傾げた。

「どうしたの、フュリー?」

尋ねられ、ぎこちなく固まったフュリーはえへえへとこれまた不自然な笑みを浮かべる。そうして、もごもごと言った。

「ええっと……やっぱりお会いになるのはやめた方がいいかなー、なんて思ったり……」

「なぜ?」

にっこりと追求するマーニャ。フュリーは助けを求めて視線をめぐらせたが、行き着いたのはやはり首を傾げているレヴィンで。

腹を括ってフュリーは白状した。

「あの、実は。ティルテュ様とお話していたときについうっかりぽろっと言ってしまったことがあって……」

その続きを察したのか、レヴィンがなにやら一人でぎくりとした顔をした。マーニャは変わらず首を傾げて聞いている。

「そのぅ……レヴィン様の初恋がお姉さまだったって……」

「フュリー、お前!!」

フュリーの告白にレヴィンが真っ赤になって怒鳴る。肩を縮こまらせながら、フュリーは必死の弁解を試みた。

「で、でもそのころはレヴィン様とティルテュ様がご結婚なさるなんて思ってなかったですし、お茶の席のちょっとしたネタとして…」

「勝手にネタにするな!大体俺がいつマーニャに……」

「あら、違うんですか?」

それはちょっと残念ですねぇ、とマーニャがのんびりと言った。レヴィンが目を丸くする。

「残念…なのか?」

するとマーニャはころころと笑った。

「そりゃそうですよ。だって王子様に懸想されるなんて、滅多にあることじゃありませんもの」

レヴィンが複雑に顔をしかめた。王子の恋ではなく、レヴィン個人の恋だったのだが。

「そんなこと言ってるから妹に先越されたりするんだぞ」

「いいんですよ、わたしは王子が国に戻られたらゆっくりのんびり自分に合った相手を探しますから」

何をどう言ったところで、マーニャの方が一枚も二枚も上手だった。やれやれ、とレヴィンは肩をすくめる。

「で、そのフュリーのお相手はどんな方なのですって?」

姉の問いかけにフュリーは恥ずかしそうな笑顔を浮かべた。

「とても優しい方よ、お姉さま。今度ゆっくりできるときに、是非会っていただきたいわ」

マーニャは小さく目を細めた。

「そうね。きっと、近いうちに。ティルテュ様にも、お会いしたいわ」

フュリーは微笑み、レヴィンはほんの少し投げやりにハイハイと答える。

きっと近いうちに。

三者三様の想いで、それぞれその言葉を抱きしめた。

幼い頃からいくつもの約束をし、そうしてそれらが破れることは一つとしてなく。これから先もないと信じて。

戦いの狭間のひと時は、優しくゆるやかに流れた。

- fin -


FE聖戦誕生祭10作目。セイレーン城をラーナ王妃とマーニャが訪ねてきたときのお話です。4章開始時。ですので、この時点でティルテュとレヴィンの結婚はまだ成立してないはずなんですけども(4章内での成立は可能ですが、開始時は無理、なはず)まぁそのあたりはちょっと脇にうっちゃって。ずっとシリアスが続いていたので、少しほのぼのしたお話を書きたいなぁと思ったのです。この後過酷な現実が待っているわけですけども、彼らにはとりあえず束の間でも幸せを堪能していただきたいな、と。

2003年5月12日 凪沢 夕禾

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