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falling moon

ナイフ

思えば
無邪気さにも似た 自覚のない悪意で
どれだけ傷つけたことだろう
"悪気なんか、なかったのです"
そんな言葉が言い訳になるなら
これほど恨めしげに見つめられることなんてなかったはず
その笑顔の陰に
その優しさの陰に
研ぎ澄まされたナイフのような冷たさを感じるたびに
同じ温度の汗が背中をつたう
"ごめん"と
謝罪の言葉を口にしてしまえば 少しは楽になるのだろうか
罪は決して消えないと それは考えるまでもない事実であるのに
秘めて向けられるそれよりも さらに切れ味のよいもので
確実に深く鋭く抉ったのは 紛れもなく自分であるというのに

それでも もしもかなうなら
もう一度曇りのない瞳で 映し出してほしい
その視線 それこそが
過去を切り取るナイフとなってくれるなら
他に望むものはない