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Essay

心と言葉

よくよく考えてみれば当然のことなのに、ふと気付いたことがある。

いまさら気付くなんて、文章を書く人間として失格なのだろうけれど。気付いた、という言い方は適切ではないかもしれない。深く考えさせられたことが、あったのだ。

わたしは物書きだ。それで生計をたてているプロではないけれど、言葉の紡ぎ手の一人でありたい、という想いを持っている。

世の中に同じ志を持つ人は大勢いて、わたしと同じようにプロではないけれど、文章を、物語を綴ることを愛してやまない人がいる。その中でネット上で小説を公開している人はやっぱりたくさんいて、もちろんその全てを読み尽くすことなんてできるわけもない。

全然知らない誰かが、もしかしたら、同じような話を書いているかもしれない。わたしの頭の中に広がっている世界は、誰かの世界とよく似ているかもしれない。

誰かの真似じゃなく、オリジナルを書く。それがしたいから、自分で書いている。けれど、そこにはとても大きなリスクがあるのだ。

描き出す世界にあるものの基本は、自分が見たもの聞いたもの読んだもの、どこかで取り入れた情報だ。だから、完全なオリジナルではない。他の人も取り入れうる情報、そして導きうる結果。自分以外の誰かが、書いてもおかしくないもの。それを書いているんだから。

だから、もしかしたら。

ある日突然、「あなたの書いているものはわたしの書いたものを盗んだものだ」と言われるようなことも、なきにしもあらずだ。まるで心当たりがなくとも……これは自分の心にあったものだという自信がたっぷりなみなみあったとしても。

他者がそういう疑惑を抱くかもしれない可能性は否めない。

実際、そういうことがあったという話は耳にするし……だからこそ、こうやっていろいろ考えさせられるわけだけれど。

月が好き。青が好き。不思議が好き。

共通点を持つ人は、たくさんいる。共通点を持つ人の中で、物語を作る人も、たくさんいる。

できあがる作品の中にある程度の類似性が生まれるのは……当然の結果なんじゃないかな?

テーマが同じ、コンセプトが同じ、そんなの世の中にはごろごろ。わざと同じものを題材に競作することだってあるんだし。それらをすべて「真似っこ」だとは、わたしは言いたくない。

なかには、それがどうしても許せないという人もいる、ということは知っている。他者からしてみれば、盗作だなんてまるで思えない2つの話……テーマが似ていて。出てくるキャラクターの種別が同じで。話の運びや、キャラクターの使い方がまるで違っていても、前述の二点がひっかかって、これは真似だ、と主張する人もいる。

自分の話に絶対の自信があって、自分の世界がとても大切な人なんだろうって思う。そこに他者の領域は、ないのだ。

そういうのも、もちろんありなんだろう。そういう考え方が正しいのかも、しれない。だけどわたしは……わたしなら。輪を広げることを選ぶ。

わたしも自分の世界がとても大切。だけどそれは、他者を排除することで成り立つものじゃない。他に似ているものがいくらあったとしても……その中で一つ、輝くものが書けたらいいなって思う。十のうち九まで似ていても、最後の一つがオリジナルなら、それはオリジナルだ。もちろんこれは、あくまでも「偶然似ている場合」という前提があるのであって、故意に真似をする場合は当てはまらないわけだけど。

言葉には、限界がある。

表現力にも、限界がある。

でも、心には限界がないから。

心の中に広がる世界、それをすべて表に出すことができたなら、同じ作品なんて出てくることはないだろう。けれどそれを言葉の枠に当てはめて、誰にでもわかる言葉に置き換えて表現しようとするから、似てしまう。

───だから、難しいんだよね。

だって、人から見えるのは、心じゃなくて、言葉だもの。

わたしの持つ世界は、わたしの紡ぐ言葉を通してでしか、他者には伝わらない。

だからこそ、言葉には力が宿る。

言葉を紡ぐのって難しい。ほんとにね。

自分の考えてること全部、伝えたい。頭にあること、心にあること、全部全部出して、世界を見せたい。だけど、言葉には限界があって、自分の能力にも限界がある。

もどかしい。悔しい。そして、怖い。

言葉を紡ぐことは、とても怖いこと。

それを読んだ人に、何らかの感動を与えるから。

それが「くだらない」「つまらない」という思いだったとしても。何らかの心の動きが、そこにあるから。

コトバとココロ。

切っても切れない関係なのに、とっても遠い場所にある。その距離をできるだけ縮めること、それが文章を書くという作業。

好きな作家の影響を受けたり。

人のココロを恐れて、思うように書けなかったり。

自分の心が整理できなくて書けなかったり。

それでも、書くことをやめない。やめられない。

だってわたしには心がある。

そしてわたしは、拙く幼いものだとしても……心を届ける方法を、知っているから。

(2001/04/17)